紙端国体劇場様の二次創作置き場。
2012/05/19 (Sat)00:34
ちょっとしたパラレル話!
とある町の古書店での話。
カラン、と古びたベルが鳴った。
薄暗い店内、古書の匂いが鼻腔を指す。
「こんにちはー」
人気のない店内に声をかければ、一拍間があって暖簾をかきわけ人が出てきた。
「いらっしゃいませ」
にこ、と笑った彼はかけていた眼鏡をシャツのポケットに仕舞う。
空間に似合わぬ若い姿に驚いた。
歳のころは山陽とあまり変わらないか、もう少し若いくらいだろうか。
「お客様?」
どうしましたか、と不思議そうに問われるのに慌ててメモ書きを差し出した。
「この本が大至急欲しいんだ。ここにならあると聞いて……」
「ちょっと、失礼しますね」
思いのほか大きな手がメモを受け取り書きつけられた文字を追う。
僅か、悩むそぶりを見せると徐に傍らの本棚から一冊の本を取り出し、差し出してきた。
「これでしょうか」
「あっ!」
古書店と言う古書店を梯子したのに見つけられなかった本。
思わず山陽は泣きそうになった。
「よかったぁぁぁっ!」
ひしっ、と抱きしめ叫ぶ。
大袈裟なほど喜ぶ山陽の姿にふっと黒髪の彼が笑った。
「あ……」
思わずその顔に見とれる。
決して派手な容姿をしているわけでもない、着飾っているわけでもない、けれど密やかな華があった。
「? どうしました?」
笑みは一瞬で。
すぐに戻ってしまった表情に残念な気持ちになる。
「いや、その、この本、ください」
じっと待つ姿に上手く言葉が出ない。
ようやく口から出てきたのはそんな言葉で。
「ありがとうございます」
事務的に会計を済ますと、彼は頭を下げた。
「あ、のさ」
「はい」
買った本を胸に抱え、意を決して顔を上げる。
心臓がバクバクとうるさい。
「また、来てもいいかな?」
「……定休日は月曜日です」
沈黙の後に返されたセリフを了承と受け取った。
ぱぁっ、と笑うととびきりの笑顔を彼に向ける。
「俺、山陽って言うんだ。君は?」
「ジュニア、と呼ばれています」
ほんの僅か見えた感情は困惑。
けれど、無反応よりは良いと勝手に納得して、今度こそドアに手をかけた。
「じゃあ、またね。ジュニア」
「……ありがとうございました」
―カラン
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そして物語りの幕は開いた。
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