忍者ブログ
紙端国体劇場様の二次創作置き場。
2024/04/23 (Tue)20:06
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2011/07/31 (Sun)17:56

タイトルに深い意味はありません。
じょちよばかり詰め合わせた短編集が作りたいのですが、時間がなさげ;
その中から一本引っ張り出したきたのでした。
季節外れは見なかったことに。。。


















寒いからあまり冬は好きじゃない。

はぁ、っと吐く息が真っ白になって冷たい風に霧散する。
容赦のない北風が千代田の髪を煽った。
首を竦めてマフラーを鼻の辺りまで引き上げる。
菫色のモヘアのマフラー。
もこもこの感触に覆われて、気持ち寒さが軽減した気がする。
スン、と鼻をすすって、小脇に抱えた書類が飛ばされないように抱えなおした。
手袋をしない指先を擦り合わせる。
悴んでしまって、ほとんど感覚がなかった。
晴れ間が覗けば少しでも暖かいのに、と恨めしげに見上げた空はどんよりと厚い雲に覆われていて今にも泣き出してしまいそう。

「ったく、冗談じゃないよ」

気休めに息を吐きかける指先は真っ赤になっていた。
我慢できなくなって、千代田はコートの下に着ているセーターの袖を引っ張ると、掌の半分ほどまで覆う。
こんなことをしているからセーターの袖が伸びるのだ。
日比谷辺りに見つかれば渋い顔をされるに違いない。

「まだこない……」

指定された時間を過ぎても一向に待つ電車が来る様子がなかった。
この風では徐行運転を強いられているのだろう。
この様子では到着するのがいつになるのかもわからない。

「連絡くらいしろ、馬鹿」

うんともすんとも言わない携帯電話を引っ張り出し、ディスプレイに悪態をつくとまたポケットに押し込んだ。
ビュウ、と詰めたい風が吹きつける。
眉間に皺を寄せて「これだから地上は嫌なんだ」とボヤいた。
温かい室内が恋しい。
蜂蜜を入れたホットミルクか、甘いロイヤルミルクティが飲みたくなる。
あまりの寒さに一度休憩室へ戻ろうかとホームに背中を向けた。
吹きつける風に逆らうように歩き出す。

――ヴヴッ

それを見計らったように携帯電話が震えた。
悴んだ指先でどうにかメールを開く。
そこにはたった一言、『今、松戸』と書かれていた。

「…………」

暖かい休憩室が一瞬脳裏を過ぎったが、溜め息を一つついて方向転換をする。
少しでも風から逃れようと、僅かな抵抗で自販機の陰に立った。
書類ごと両腕を抱えて、マフラーの中に顔を埋める。
目を閉じて、じっと耐えた。
瞼の裏に意識を集中して、寒さを意識の外へと追い出す。

「早くこい」

無意識に零した声が風に攫われて消えていった。
どれくらいそうしていただろうか。
プアー、と言う音にゆっくり目を開ける。
車体にエメラルドグリーンのラインが入った電車がゆっくりと入線してきた。
ガッコン、と止まって一拍。
ドアが開くと乗客と一緒に熱が流れ出してきた。

「悪ぃ、悪ぃ。風が強くってさー」

人の波を縫って、鮮やかな藤紫色が千代田の目の前に現れる。
瞬きを一回。眼鏡を押し上げて口を開いた。

「遅くなるなら連絡のひとつでも入れたら?」

労いの言葉もなく厭味を零す。
ピク、と常磐の片眉が動くのを表情を変えずに眺めると、抱えていた書類を差し出した。
奪いとるように封筒が回収される。
一瞬だけ、指先が触れた。

「……お前なぁ」

驚いた表情で顔を上げた常磐が、何も言わずに千代田の両手を握る。
痛みを通り越すほど冷えた指先に、じんわりと常磐の熱が沁み込んで行く。

「そこまで重装備で手袋してねーとかわけわっかんねー」
「しょうがないだろ。こんなに長いこと待たされるとは思ってなかったんだから」

呆れ顔にしかめっ面を返した。
けれどこれは嘘だ。
あえて手袋はしてこなかったのだから。
流石に思うところがあったのか、常磐は何も言い返してこない。
ただ、ぎゅうと千代田の手を握るのに力が篭った。

「うっせ!俺だって好きで遅れたんじゃねーっつの」
「知ってるよ」

さらり、と肯定されて驚いたように常磐は千代田を見る。
何?と首を傾げられ「なんでもねーよ」とそっぽを向いた。

「…………」
「………………オレ、いい加減寒いんだけど」

黙り込んだ常磐に、ぼそりと千代田が零す。
はぁ?と言いたげな視線にもう一度「寒い」と繰り返した。
ちなみに常磐は制服の上にコートを一枚のみ。
千代田はセーターにマフラーにコートの着膨れ重装備。

「ほんっと、メトロはなよっちいよなー」
「うるさいな。すぐ止まるJRに言われたくないよ」

いつも通りに口論に似た掛け合いを繰り広げながら、どちらともなく歩き出した。
片手は繋いだまま。

「しょうがねーから、ココア奢ってやるよ」
「オレは紅茶が飲みたい」


冬は好きじゃない。
けれど、素直になれない自分にはちょうどいい季節だと思った。



+++++
ツンデレ×2。
書きやすいんですよねー……

PR
Comment
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
91  90  89  88  87  86  85  84  83  82  81 
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
性別:
非公開
自己紹介:
ただのしがない文章
書き。
切ない系、片思い、
バッドエンド、一方
通行、環状線。精神系等、救いのあまり見えなぃ話が好き。
ハッピーエンドを書くのが苦手。
得意なのは専ら昼ドラ系。←
バーコード
ブログ内検索
Admin / Write
忍者ブログ [PR]