紙端国体劇場様の二次創作置き場。
2010/09/22 (Wed)00:51
某所での即興ssまとめ。
普段通り業務をこなし、帰る途中。
キキィッと耳を劈く音がした。
何?と思う間もなく、脊髄を駆け抜けた感覚のままに横っ飛びに飛んで、転がる。
コンクリの硬い感触を感じながら数回横に転がった。
直後。ドンッと言う音とともにほんの数秒前まで歩いていた場所にひしゃげた車。
ぞ、とこめかみを嫌な汗が伝った。
一瞬でも遅ければ巻き込まれていたに違いない。
地面に這い蹲ったまま茫然と変形した車を見つめていた。
辛うじて無事だったドライバーが車から這い出てくる。
ぶすぶすと車から黒い煙が上がり出した。
きな臭い、覚えのある匂い。
最初は細かった黒煙が徐々に太さを増していった。
周囲に立ち込める嫌な匂い。
ちら、と黒の間から覗く朱炎。
瞬時にフラッシュバックした記憶。
込み上げる吐き気。
必死に堪えて、ふらり立ち上がる。
回る視界。
「ちょっと、あなた大丈夫?」
不意にかけられた声。
のろのろと視線を上げた。
知らない女性。
格好から見て近所の主婦だろう。
辺りを見回せば音と匂いに人が集まってきていた。
「酷い顔色よ?」
「だい、じょうぶです」
呼吸するたび鼻腔を掠める匂いに意識が飛びそうになる。
むりやり笑顔を作り、その場からできる限り早く離れた。
集まってくる人々に逆らい、人気のない方へと歩を進める。
ぐらぐらと脳が揺れる。
心臓が狂ったように鼓動を刻んでいた。
ようやくたどり着いた宿舎の自室。
洗面台の鏡に映った顔は酷いものだった。
血の気の引いた白い頬。唇は薄っすらと青い。
顔を洗おうと蛇口を捻った。
ザーッと勢いよく出る水に両手を突っ込む。
「っ……」
ぞわり、と全身の産毛が逆立つ感覚。
顔を洗おうと屈めた身を反射的に起こした。
音がしない。
目の前の鏡に、自分ではない自分が映っていた。
「ぁ…………」
ひくり、咽喉が痙攣する。
引き寄せられるように水に濡れた手を鏡に伸ばした。
映る自分も手を伸ばす。
紅い色に、塗れた手を。
ぺたり、触れた冷たい鏡面。
鏡の中の自分が口を開いた。
『やっと、オレのことを思い出したのか』
抑揚に欠ける声が脳内で木霊する。
生気のない黒い双眸。
不自然に色の抜かれた短髪。
身に纏うのは漆黒の制服。
「お前、は……」
『オレはオマエだろ?』
にたり、と唇の端が歪んだ笑みの形を作った。
視界が揺れる。
風景から色が抜けていく。
ずずっ、と鏡から黒い制服の腕が二本伸びて体に絡みついた。
『オマエはオレから逃げられない』
乾いた砂と硝煙の匂いがする。
「ちが、ぅ……」
拒絶するようにゆるゆると首を振った。
絡みつく腕から逃れようと腕を伸ばせば、何もない空間をかくだけに終わる。
「え……?」
『どこを、見てるんだ?』
凍えるような腕の温度が首の後ろにあった。
触れる温度に総毛立つ。
萎縮してしまった胃が痛い。
「放せ……っっ」
さっきより力を籠めた声で吼える。
『いいとも』
鷹揚に頷くといとも容易く腕が解かれる。
唖然としているうちにその姿は再び鏡の中へと戻っていった。
『でも、忘れるなよ?オレはオマエだ』
波紋を広げる鏡面の中、洞のような瞳と歪な口元が見える。
「消えろ……っっ」
――ガシャンッ
発作的に振り上げた手を鏡に叩きつけた。
ビシビシッと表面に皹が入る。
「っ……!」
割れた鏡面一枚一枚に歪んだ笑みが見えるようで、何度も何度も拳を叩き付けた。
「は……はぁ……」
荒い息を吐く。
ぽたぽたと水の滴る音と一緒に、消えた音が戻ってきていた。
辺りに広がるのは鉄錆の匂い。
遠くに聞こえるパトカーのサイレンに瞬きを一回する。
ひび割れ過ぎて何も映せなくなった鏡をきつく睨みつけたまま、動くことが出来なかった。
首の後ろにはまだ、あの凍りつくような感触が残っている。
「……ぅ」
ぽつり、と唇から音が零れた。
「俺は、違う」
血を吐く様な否定の言葉。
それに答える声は、当然なかった。
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某所でのテロ?
書きたいけど、需要がなぃのでお蔵入りの話の序章。←
しかも即興www
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